倫理・利益相反委員会
序文
整形外科リハビリテーション学会は、会員のリハビリテーションに関する基礎および臨床研究の発表、連絡、提携ならびに研究の促進をはかりリハビリテーション医学の進歩普及に貢献し、もって人類の福祉に寄与することを目的とする。
整形外科リハビリテーション学会の学術集会・「整形外科リハビリテーション学会学会誌」などで発表される研究成果には、各種疾患・外傷・障害を有する患者を対象とした評価・治療・予防のための臨床研究、健常者が含まれる研究、新規の医療機器・医療技術を用いた臨床研究が多く含まれており、その推進には産学連携活動(共同研究、受託研究、奨学寄付金、寄附講座など)が基盤となっている場合が少なからずある。産学連携による医学的研究では、研究機関と特定企業の相互影響が想定され、研究者の教育・研究・診療上の責務と、産学連携に伴い個人が取得する私的利益が衝突・相反する状態が発生する。こうした状態が利益相反(conflict of interest:COI)と呼ばれるものである。現在の社会環境において利益相反は不可避的であるが、利益相反状態が深刻な場合は研究方法・データ解析・結果解釈が歪曲する可能性が生じる。また、適切な研究成果であるにもかかわらず、公正な評価が下されない可能性も起こり得る。このため、利益相反マネージメントは社会への説明責任として研究者の義務となっている。
欧米では既に多くの学会や雑誌が産学連携による研究の適正な推進や発表における公明性を確保するため、臨床研究に関する利益相反指針を策定し義務化している。国際医学雑誌編集者委員会(International Committee of Medical Journal Editors)は2013年12月、「Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals」を公表し、産学連携における医学研究成果の公表に関する推奨を行っている。
各種疾患・外傷・障害の予防・診断・治療法に関する研究活動は近年、積極的に行われており、本学会における利益相反指針の策定は必要不可欠である。整形外科リハビリテーション学会の事業実施においても会員に対して利益相反に関する指針を明確に示し、産学連携による重要な研究・開発の公正さを確保した上で、医学研究を積極的に推進することが重要である。
Ⅰ.目的
「ヘルシンキ宣言」にある通り、臨床研究は対象が人間であることから、被験者の人権・生命を守り、安全に実施することに格別な配慮が求められる。文部科学省および厚生労働省は2014年12月「人を対象とする医学的研究に関する倫理指針」を公布し、そのガイダンスを2015年3月に公表している。これは近年の研究多様化や不適正事案の発生等を踏まえた改正であり、全ての研究機関が本指針を円滑運用・遵守し、組織体制や内規の整備を行うよう提言している。また、併せて日本医学会による「医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」も2015年3月に一部改定されている。
整形外科リハビリテーション学会は、学会活動に対して社会的責任と高度な倫理性が要求されていることを踏まえ、「医学研究の利益相反に関する指針」(以下、本指針と略す)を策定する。その目的は、整形外科リハビリテーション学会が会員などの利益相反状態を適切にマネージメントすることで、研究結果の発表やその普及・啓発を中立性と公明性を維持・推進し、各種疾患・外傷・障害の予防・評価・治療の進歩に貢献することにより社会的責務を果たすことにある。本指針の核心は、整形外科リハビリテーション学会会員などに対して利益相反の基本的考えを示し、本学会が行う事業に参加し発表する場合において利益相反状態を自己申告により適切に開示させることにある。整形外科リハビリテーション学会会員が以下に定める本指針を遵守することを求める。
Ⅱ.対象者
利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者に対し、本指針が適用される。
1. 本学会会員
2. 本学会事務局職員
3. 本学会で発表する者(非会員も含む)
4. 本学会の理事・監事・代議員、学術集会および関連研究会担当責任者(会長など)、各種委員会委員、暫定的作業部会委員
5. 1~4の対象者の配偶者、一親等の親族、または収入・財産を共有する者
Ⅲ.対象となる活動
整形外科リハビリテーション学会が関わる全ての事業および活動に対して本指針を適用する。特に、整形外科リハビリテーション学会学術集会、全国研修会、シンポジウムおよび特別講習会、「整形外科リハビリテーション学会学会誌」での発表を行う研究者、また企業・法人組織、営利を目的とする団体が主催または共催する講演会、研究会、各種セミナーなどで発表する場合など、リハビリテーションに関する研究の全てに本指針を遵守することが求められる。教育的講演や市民公開講座などは社会的影響力が強いことから、その演者には特段の本指針遵守が求められる。
IV.申告すべき事項
対象者は自身における以下の1~10の事項で別に定める基準を超える場合、利益相反の状況を所定の様式に従い自己申告によって正確に開示する義務を負うものとする。また、対象者は、その配偶者、一親等の親族、または収入・財産を共有する者における以下の1~3の事項において別に定める基準を超える場合、その正確な状況を学会に申告する義務を負うものとする。なお、自己申告および申告された内容については、申告者本人が責任を持つものとする。具体的な開示・公開方法は、対象活動に応じて別に補足として定める。
1. 企業や営利を目的とした団体の役員、顧問職、社員等の兼業
2. 企業の株の保有
3. 企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
4. 企業や営利を目的とした団体から、会議の出席(発表)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)
5. 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
6. 企業や営利を目的とした団体が提供する医学研究費・機器物品等
7. 訴訟等に際して企業や営利を目的とした団体から支払われる顧問料及び謝礼
8. 企業や営利を目的とした団体からの研究員等の受け入れ
9. 企業や営利を目的とした団体が提供する寄付講座
10. その他の報酬(研究とは直接無関係な旅行、贈答品など)
Ⅴ.利益相反状態の回避
1.対象者全てが回避すべきこと
研究結果の公表は、純粋に科学的な判断あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである。整形外科リハビリテーション学会会員などは研究結果を会議・論文などで発表する、あるいは発表しないという決定や、研究結果とその解釈といった本質的な発表内容について、その研究資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず、また影響を避けられないような契約書を締結してはならない。
2.医学研究の試験責任者が回避すべきこと
医学研究(臨床試験、治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ総括責任者は、以下の利益相反状態にない研究者が選出されるべきであり、また選出後もこれらの利益相反状態となることを回避すべきである。
① 医学研究を依頼する企業の株の保有
② 医学研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権などの獲得
③ 医学研究を依頼する企業や営利を目的とした団体の役員、理事、顧問など(無償の科学的な顧問は除く)
但し、①~③に該当する研究者であっても、当該医学研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり、かつ当該医学研究が社会的にも極めて重要な意義をもつような場合、当該臨医学研究の試験責任者に就任することは可能とする。
Ⅵ.実施方法
1) 会員の責務
会員は研究成果を学術集会等で発表する場合、当該研究実施に関わる利益相反状態を所定の書式を用い適切に開示する義務を負うものとする。本指針に反する事態が生じた場合には、倫理・利益相反委員会(以下、所轄委員会)にて審議し、理事会に上申する。
2) 役員等の役割
整形外科リハビリテーション学会の役員(代表理事、常任理事、理事)、各委員会委員、暫定的作業部会委員、学術集会および関連研究会会長は学会に関わる全ての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状況について就任した時点で所定の書式に従い自己申告を行なう義務を負うものとする。
理事会は、役員(代表理事、常任理事、理事)が整形外科リハビリテーション学会の全ての事業を遂行する上で深刻な利益相反状態が生じた場合、或いは利益相反の自己申告が不適切と認めた場合、所轄委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。
学術集会および関連研究会会長は、研究成果が発表される場合、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する演題については発表を差し止めるなどの措置を講ずることができる。この場合、発表予定者に対しては速やかに理由を付してその旨を通知する。なお、これらの対処については所轄委員会に諮問・審議し、その答申に基づいて理事会承認を得て実施する。
「整形外科リハビリテーション学会学会誌」編集委員会は、研究成果が発表される場合、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する場合には掲載を差し止めることができる。この場合、発表予定者に対しては速やかに理由を付してその旨を通知する。また、当該論文の掲載後に本指針に反していたことが判明した場合、「整形外科リハビリテーション学会学会誌」などに編集委員長名、担当理事名および理事長名でその旨を公知することができる。なお、これらの対処については所轄委員会で審議し、その答申に基づいて理事会承認を得て実施する。
その他の委員長・委員は、それぞれが関与する学会事業に関して、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する事態が生じた場合、速やかに事態の改善策を検討する。なお、これらの対処については所轄委員会で審議し、その答申に基づいて理事会承認を得て実施する。
3) 不服の申立
前記1)ないし2)により改善の指示や差し止め処置を受けた者は、整形外科リハビリテーション学会に対し不服申立をすることができる。整形外科リハビリテーション学会はこれを受理した場合、速やかに所轄委員会において再審議し、理事会の協議を経て、その結果を不服申立者に通知する。
VII.指針違反者に対する措置と説明責任
1) 指針違反者への措置
整形外科リハビリテーション学会理事会は、別に定める規則により本指針に違反する行為に関して審議する権限を有する。審議の結果、重大な遵守違反に該当すると判断した場合、その違反の程度に応じて一定期間、次の措置を講ずることができる。
① 整形外科リハビリテーション学会が開催するすべての集会における発表禁止
② 整形外科リハビリテーション学会の刊行物への論文掲載禁止
③ 整形外科リハビリテーション学会の学術集会会長就任禁止
④ 整形外科リハビリテーション学会の理事会、総会、委員会、作業部会への参加禁止
⑤ 整形外科リハビリテーション学会の理事の解任、あるいは理事就任禁止
⑥ 整形外科リハビリテーション学会の会員資格停止、除名、あるいは入会禁止
2) 不服の申立
被措置者は整形外科リハビリテーション学会に対して不服申立をすることができる。整形外科リハビリテーション学会がこれを受理した場合、本学会代表理事は暫定審査委員会を設置し、再審理を委任し、その答申を理事会で協議した上で、その結果を被措置者に通知する。
3) 説明責任
整形外科リハビリテーション学会は、自ら関与する場にて発表された研究に本指針遵守への重大な違反があると判断した場合、所轄委員会および理事会の協議を経て、社会への説明責任を果たす。
Ⅷ.細則の制定
整形外科リハビリテーション学会は本指針を運用するため必要な細則を制定することができる。
Ⅸ.指針の改正
本指針は、社会的要因や産学連携に関する法令の改正、整備ならびに医療および研究をめぐる諸条件に適合させるため、定期的に見直しを行い改正することができる。
Ⅹ.施行日
本指針は2020年10月1日より施行する